孔に突き当たる肉の感触に鋭く息を吸い、喉を鳴らした後藤が振り返った。熱に熟れた声が緑川、とかぼそく呼ぶ。照明の消えた薄暗い洗面所でも、うっすらとまなじりが光っているのが解る。ああ変質者に目をつけられるのもよく解る。一人納得して、緑川はゆっくりと腰を打ち込んだ。
(『据え膳~』の前身)
後藤さん。後藤さん。腕にくるんで繰り返し呼ぶと、その手に握られた車の鍵が忙しなく震えて鳴った。恥じ入るようにやめてくれ、と呟く耳が一層赤いので、俺は逃げ場を失くしてやりたくなる。向けられる好意を勘違いだと思いこみたがっている臆病さすら、可愛らしくて堪らない。
本当にかわいいひとだと思う。教えた手管を丁寧になぞって、俺の股ぐらで舌を使う懸命さが愛しくて短い黒髪を撫でると、伏せた睫がそろりと持ち上がる。気持ちいいですよ、と言葉で伝える。ねえ、今安心したでしょう。そういうところが、まったくかわいい。
「後藤さん」(違う)
「後藤さん、もう観念してくださいよ」(違うんだ)
「俺のこと好きでしょう?」(違う違う嘘だそんなの俺は望んでない欲しがってないやめてくれ)
「何がそんなに怖いんです」(だって)
だってお前は絶対俺を好きになんてならないじゃないか。
(恋に落ちたくない恋に落ちたGM)
いつもと同じようにクラブハウスに顔を出して、同じように練習風景を眺める。昼飯は近所の定食屋で、有里ちゃんは今日も忙しく立ち働いていた。何も変わらない。祈るように繰り返し自分に言い聞かせても、ネットの向こうのゴールマウスに目を向けることは、どうしてもできなかった。
(別れた翌日のドリゴト(後に元鞘))
誰に抱かれたって何人に抱かれたってあなたの身体が何を覚えていたって、今あなたを抱いているのは俺であなたが抱かれたいと思っているのも俺だけだ。そうでしょう?大事なのはそれだけなんです。それだけなんですよ。ねえ、解ってください、後藤さん。
(枕営業前提ドリゴト)
俺が女の子だったらよかったのにな。何の悲壮感もなく、笑いながらあなたが言った。頭の中で異なる染色体を持つやわらかな身体にあなたを適合させようとしてみたけれど、何だかあなたが遠くへ行ってしまいそうだったので空想には蓋をした。そんな風に笑うなら、泣かれた方がずっといい。

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