ついったにて片恋コンプレックス様(http://triste.undo.jp/pkc/#)の企画を拝見してなにそれ素敵、と思ったので僭越ながら参加させて頂きたいとこっそり投下。リーマンBL眼鏡部下(28)×バツイチ眼鏡上司(42)ですが本当に特に何もしてません。需要とは。
せっかく無駄に作りこんだので、本文の後にキャラの取説をつけてみました。気が向いた方は空白を反転してみてくださいませ。
俺の好きなその人は、去年の丁度今頃に離婚した。
正確な日付や詳細は解らない。詮索していい話でもないし、できる空気でもなかった。ただ、口さがない女性社員から漏れ聞こえてくる噂で、私を滅し続けて働いた彼が、妻だった女性に三下り半をつきつけられたのだろう、ということは知れた。休日出勤を繰り返し、食事さえもおろそかにし、静かに消耗を極めてゆく彼を捨てて。
なんということをするのだろう、と思った。なんということを、なんという誤った選択を。けれど同時に、とてつもない感謝を俺はしていた。あの人を独りにしてくれてありがとうございますと。独りになったからといって、俺が彼の隣に添えることなどないと言うのに。
「部長、電話ですよ。営業推進部から」
喫煙スペースの扉を開けると、焦げついたあまい匂いがたちまち鼻腔に満ちる。俺に背を向けて窓の外を眺めていた彼が、ゆっくりと振り向いた。何事によらず、仕草に緩急のないひとなのだ。よく言えば穏やかで、悪く言えばメリハリがない。
「やだよ、小瀬君出て。代わりに」
キャスターマイルドを預けた指は、意外に男らしい輪郭をしている。きっともう、この煙草の匂いが染みついているのだろう。
「俺だってやですよ。出てください、ほら」
わざわざ持参の子機を差し出すと、彼はやっとそれに気付いたかのようにゆるく眉をしかめた。渋々受け取り、保留を解除するとぼそぼそとした物言いをする声が、それでもワントーンあかるくなる。
「お電話代わりました、佐伯です」
本社からの電話など、言われることは小言に決まっている。彼の気持ちは重々承知の上だ。短い返事と謝罪を半々に口にする彼を、凝視しないよう注意を払って、俺は大きく切られた窓に目を向けた。
「ええ、それは今日にでも。はい、では」
待ちかねていた失礼します、を吐き出すと、彼は何事もなかったかのように子機を返してきた。
「こういうのって、電話代の無駄だよね」
灰皿スタンドに灰を落として、彼はまたフィルタ越しに呼吸をする。
「そうですね、はい」
受け取った電話と交換に、俺は片手に持っていたビニール袋を渡した。中身は缶コーヒーとサンドイッチだ。ついでに言うと、レタスハムサンドだ。
「……昼ならもう食べたよ」
居心地悪そうに視線を外す様子が何とも子供じみていて、全く嘘の不得手なひとだといっそ感心する。心配させて申し訳ないと思ってるなら、もっと堂々と欺きにくればいいのに。
「嘘ですよね。はい」
ゆるりと断る素振りで上がった手首へ、強引に袋をかけると彼はようよう観念した。
「君だって食べてないじゃないか」
「部長が食ったら俺も食います」
「何なのそれ」
レンズ越しのほそい目が、弱く苦く笑う。ああ多分また寝てないな。飯より美味そうに煙草を喫う彼のせいで、俺のスーツはもうとっくに副流煙を吸っていた。
「……あのさ、小瀬君のそれって癖なの」
それ、が何を指すのか解らず、俺は心持ち首を傾げる。
「話すとき、すごく真っ直ぐにひとを見るでしょ。なんかね、困る」
ふわふわと掴みどころのない、しかし後ろめたいところを的確に突いてくる指摘に、俺はほんの少し息をつめる。お前の本音が透けて見える、と言われているようで、おそろしくなった。そんなことはない、はずだ。
「話すときは人の目を見ろって、親に躾けられましたから」
「見すぎだよ。困る」
困る、とは。直属の上司とはいえ、面を突き合わせて討論したことなどないのだが。
「俺は小心者なんだよ。いつも全力で来られるとなんていうか、引く」
「なんですか、それ」
さっき言われたばかりの言葉を、今度は俺が口にする。いい加減短くなった煙草を揉み消して、彼はゆるく手を振った。
「うん、もういいから戻んなさい。そろそろ片平くんが泣くよ」
後輩の名前を出されて、手薄になった部署を思い返す。ちゃんと食べてくださいねと念を押して、俺は喫煙室を出た。ドアが閉まる間際、ちらりと振り向くと彼はもう窓を向いていた。彼が何か言っていた気がしたのは、耳に残った単なる残響だったのだろう。
「――あんまり優しくしてくれると、惚れちゃうからさ」
佐伯 智久(さえき ともひさ)
・眼鏡
・42歳/中肉中背/173cm/62kg/A型
・部長(尾瀬の直属の上司)
・目に生気がない
・ぼそぼそ喋る
・意外とウィットには富んでいる
・喋り方から暗く見えるがそうでもない
・仕事はともかく自分のことになるとネガティブ
・先だって妻と離婚した(娘がいる)
・ゲイ(離婚の原因だがカミングアウトはしてない)
・仕事に忙殺されて趣味なにそれおいしいの
・下戸
小瀬 逸人(おぜ いつひと)
・眼鏡
・28歳/長身モデル体型/181cm/71kg/B型
・期待の中堅社員(もうすぐ昇進)
・笑顔が武器の好青年
・人当たりよく肝が据わっている
・渉外も得意
・彼女募集中と掲げておいてゲイ
・酒の席で無礼講の暴言をよく吐く
・暴言に混ぜてよく佐伯にアピールしている
・人並みに飲めるがうっかりすると飲まれる
・佐伯の下に配属された時から佐伯が好き
・最初は佐伯の薬指に内心(´・ω・`)ってなってた

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