オフィス街に共存する飲食店は、こちらにも向かいにも無数にあった。クロコダイルの目に留まったのは、歩道から一段高くとったオープンテラスのあるデリだ。白と青色を基調にした外装で、仕切りを兼ねている手摺りも白一色で塗られている。
その端に、見慣れた男を見つけた。
ほとんど黒に近いダークグレーの上下に、濃紺のシャツ。タイはしていない。辛うじてこの界隈の客層に馴染んでいるようで、やはりどこか浮いているのは、猫背とサングラスのせいだろうか。携帯で何事か話しながら、ストローでグラスの中身をかき回しているのは、紛れもなくドフラミンゴだった。
こんな真っ昼間からこんなところで何故、と思うが、そう言えば彼は、ベッドでのエスコートだけを生業にしているわけではなかった。早く上がる客と待ち合わせて遊びにでも行くのかもしれない。いつの間にか睡眠の足りない思考が内側を向いていたせいで、クロコダイルは向かいを見つめたまま立ち尽くしている自分に気付かなかった。
ぼうと目に映していた人物が、耳から携帯を離し、畳んでストローをくわえる。隣のテーブルにちらりと顔を向け、ついで首を外へと反らす。つまり、こちらを向く。
「………………」
あ。
唇の開き加減こそ違えど、二人は概ね同じ声を上げていた。
途端に我に返るも、驚くほど横に広がる口角を上げてこれ見よがしに手招きされれば、無視するのも気が引ける。
仕方なしに、クロコダイルは道路を渡ると、ドフラミンゴのいる店で昼食をとることにした。こんな時に限って、信号は素早く青に変わる。
「すげェ偶然だな。お仕事?」
「まァな」
内側にクリームの残るカップの前にプレートを置き、クロコダイルはドフラミンゴの正面に腰掛けた。オリーブとターキーのハムが景気よく挟まっているサンドにチリビーンズ、それとエスプレッソ。皿に載せた後でやや重すぎるチョイスだったことに気付くが、もう遅かった。
「あんたが物食ってるのって新鮮」
あとそれも、と自分のサングラスを指す相手に、クロコダイルは自身もレンズ越しに物を見ていたことを思い出した。フレームレスの眼鏡は、表紙の図案を広げられた時にかけて、そのまま外していなかった。
黒いシャツの下は、やはりシャワーの温度が残っていた。
痕を残さない程度に吸いつきながら、ドフラミンゴは露わになった身体のラインを追う。汚れるからと潔く先に脱いでしまうクロコダイルは、もしかしたらセックスをスポーツと同じカテゴリに入れているのではないかと思う。励めば確かに疲労度はそれなりだし、ストレス解消にも大いに役立つけれど、二つには歴然とした違いがある。
「…………ぁ?」
「根本が違う、って話」
曖昧な返事に、ドフラミンゴは言葉を繰り返した。曖昧にさせているのは自分の指で、使いきりのパッケージから絞り出した液体でぬめるそれは、付け根までクロコダイルのなかに埋まっている。
「スポーツは自分が好きならできるだろ? でもセックスは、相手を喜ばすことも考えなきゃできねェ」
ゆるく曲げた二本の指を、深いところでうごめかせる。中指が勘所をかすめると、クロコダイルは右手で顔を覆った。解りやすい反応を逃がすはずもなく、ぬかるむ音が彼を追いつめる。
「は……っ、ぁ、あ…っ」
とろり、と透明な雫が起ち上がった肉を緩慢に伝う。根本まで辿りつく前にそれを舐め上げて、ドフラミンゴは口腔に迎え入れた。こんなところまで清潔な匂いがする。
「や、め……しなくて、い……っ」
手袋のままの左手が、短い金髪を所在なげにかき回す。没頭しているふりで前と後ろの粘膜をあやし続けていると、徐々に呼吸が速く浅くなっていった。時折風笛のように、頭の上で喉がひゅ、と鳴る。信用のない舌を補って余りある身体の素直さに、ドフラミンゴはいつも感嘆する。
「イきたい?」
直球で尋ねる。睦言抜きを忠実に実行する彼の声は、情緒がない代わりに、ぞっとするほど欲を煽った。てのひらの隙間から、蜂蜜色の虹彩がくすぶっているのが見える。引き結んだ唇は肯定の裏返しだ。首肯への逡巡が、彼の口を閉ざした。
始終こんなテンションの、大体物食ってるかやってるかのどっちかなドフ鰐です。

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