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萌えた時に萌えたものを書いたり叫んだりする妄想処。生存確認はついったにて。
30 . April
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14 . December
ドリゴトくださいドリゴトくださいってたつもちの女神様にお願いしたら願いを叶えてもらえたので供物としてお供えしたたつもちです。
持田が突然女体化してます(が性的な描写はありません)ので苦手な方はご注意ください。












「脚治ったってこんなんじゃあさ」
 ボール蹴れないよね、と笑う声は一般の基準より低いが、元の彼よりはずっと高い。既にして、持田から彼と呼べる資格は剥奪されてしまっていたけれど。
 伸びやかに胴の付け根から続く脚の、線のなめらかさ。肩のまるさ、ささやかな胸のふくよかさと腰の豊かさ。非現実的すぎていっそ夢でも見ているのではないかと達海は思った。それでも性別を超えた持田の身体は厳然とそこに存在していて、皮肉気に上げた唇の端と、達海さん、と呼ぶ声の調子で、彼女を彼であった女性だと信じさせた。
「体丸ごと変わっちゃったからさ、もしかしてと思って走ってみたんだよね。そしたら全然痛くねーの。走っても跳んでも平気だった、んだけど」
 その言葉の続きは達海も知っていた。練習が終わった後のETUのグラウンドで、ボールを追いかけていた影が糸を断たれた人形のように、芝の上に崩れるのを見ていた。圧倒的に足りない筋力と持久力。彼女の四肢はどこも健やかだったが、平均的な女性の体力値しか持っていなかった。驚くほど早く迎えた可動時間の限界を把握することができず、持田はあっけなく忍び込んだ敵チームのグラウンドに伸びた。
「身体、大丈夫なの」
 膝の上の小作りな頭に問いかける。倒れたまま鋭い夜気に冷やされて、汗だくの身体をつめたくした彼女に、達海は自分の部屋と寝床と着替えと空調を提供していた。胸を覆う下着を着けていないにも拘わらず、持田は彼の前で湿った服を脱ぎ捨てることにいささかの躊躇も見せなかった。
「ぶはっ、どこ見てんの達海さん。どう見ても全然大丈夫じゃないでしょ」
 冗談めかして自分の胸を揺すり上げる持田の手を、軽くはたく。触れた手はひやりとしていた。男性の割に末端の体温の低い達海よりも。深く考えないまま指をからめて、空いた手は額にあてる。人差し指の辺りで、目元まで覆ってしまえた。
「……は、やっさしー」
 酷く傷ついた声音で、吐き捨てるように笑う。その口調は持田そのものなのに、声の色だけが違う。やがてじわりと指の付け根がぬくまった。体温を写しとった雫が、まなじりと指を伝ってこめかみへと伝ってゆく。
「あれ、」
 不思議そうに呟いた言葉尻は早々に詰まった。ひっ、と喉がかぼそくひきつり、それを皮切りに止まらなくなる。どうしたの、辛いの、大丈夫。言えるはずもなく、答えが出ている問いを飲み込んで、達海は口をつぐむ。どうしたのと言うならとっくにどうかしている。こんな条理を踏み倒した事態に陥って、苦痛を感じていないわけがない。誰も誰にも己の身に起こったことを説明できないまま、ここまでひとりでやってきた時点で、大丈夫ではないに決まっている。
「女の子、って、すぐ、涙、出る、ん、だ、知らな、かっ」
 無理に喋ろうとしているのが解ったので、額に置いていた手で細い茶色の髪を撫でて、しずかに制した。髪の長さは変わらなかったが、短く跳ねるくせっ毛は却って華奢な顎の線や首筋の細さを目立たせていた。
「た、つみ、さ、」
「うん」
 持田が寝返りを打つ。達海の腹に顔を埋め、シャツの裾を引っ張る。かすかな空調の音と、遠い車の音。ふるえる息遣いを聞き取るのに、何の痛痒もない。
「どうしよう、おれ、やだ、こんなの」
 不安定に揺らめきぶれた拒絶は、落ちる寸前の線香花火の切迫感を思い出させた。張り詰めきってぎりぎりで堪えているようで、その実ちぎれるのを待つしかない熱のかたまり。
「サッカー、したいよ、たつみさん」
 うん、と頷く以外、達海には何もできなかった。
 父親のように抱いて寝た持田の身体からは、紛れもない女のあまい匂いがした。





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