【タツモチ】
久しぶりに食ったなあ。チーズバーガーを頬張って、指についた油と塩を舐める。いつぶりかと尋ねたら、覚えてないと即答された。質の悪い油分と塩分たっぷりの、腹に溜まらないジャンクフード。何で食いたくなったかは聞かなかった。王様のスパイクは、昨日仕事を終えた。
白痴猫耳持田/むずがるようなねだるような、あまい声をこぼしながら腿に跨って身体をすりつけてくる。欲情を抱えるには未成熟な四肢の、なめらかな感触も温度も味も俺は知ってる。ごめんねと毎回頭を撫でるのは自分自身への免罪符で、シャツの下に手を滑らせると持田は嬉しそうに笑った。
白痴猫耳持田+後藤さん/すん、と鼻を鳴らしてしきりに指先に顔を寄せてくるので、何でかと思ったら昼はチキンカツサンドだった。もうやれるものがなくて考えあぐねていると、とうとう人差し指に食いつかれる。少し痛い。そのままよじ登ってくる小さな体を抱えて、脚の痺れる覚悟をした。
※白痴猫耳持田は「青狂」のえっさんと「槃しくない戀をしよう。」のはなつかさんのお宅からお借りしました。
【スギドリ】
好きです。言い訳もできないほど種々の感情をこめてしまった告白の返事は、想像していたどれよりも優しくて酷かった。うん、気付いてた、ごめんな。こっちこそ謝らなきゃいけないのに、開きかけた口の端に封をするように、薄い唇がかるく触れた。ねえ、諦めろって言うなら、何で。
【笠副】
濡れますよ。車の中から言葉を掛けられた時にはもう、上等な背広が色を変えていた。風邪を引く、送ります、何も取って食いやしません。散々説き伏せられた、という事実を作らなければ、彼の脚は動かない。口約束を反故にされることを望んでいるのは、とうに知れているというのに。
【コシ←ジノ】
国籍を日本にしたのは僕の意志だけど、それは僕の身体に流れる血の半分を否定したことにはならない。僕にはイタリア男の誇りと見栄と美学があるんだ。解るかい?――だから僕は死んでも君が好きだなんて言わないよ。(ああ、こんな無様な恋!)
【ホタガミホタ】
俺とあの人では見え方も感じ方も考え方も何もかもが違って、だから俺の思う言葉をあの人が口にしてもそれが同じ意味で同じ重さだなんて証明することはできない。それでも、けろりと吐かれた一言に期待する自分が全くおめでたい。あの人の隣で曖昧に笑うしか出来ない男を心底蔑んだ。
【タツゴト】
本を読むようになった。眼鏡をかけるようになった。スーツを着るようになった。うっすらとできた目元の皺も筋肉の落ちた身体も鞄に入ってる水色の煙草のパッケージも、俺は知らなかった。お前の顔を見た瞬間、声を上げて泣きたくなったって白状したら、お前はどうしたのかな。
【セラサク】
堺さん。堺さん堺さんさかいさん。ああもうそんなに何度も呼ばねえでも聞こえてんだよ第一目の前にいんだから聞こえてねえわけねえだろうが。散々人の名前を連呼した後のたった四文字の音だってしっかり聞いちまっただろうが。いいからとっ散らかった頭ん中整理させろよふざけんな。
【ジノバキ←ザッキー】
嫌味ったらしいほど優雅に笑って、飼い犬同士で仲がいいのは良いことだね、と自称飼い主は出て行った。ていうか犬じゃねえし。こいつはともかく俺は犬じゃねえし。反論する間もなくロッカーに取り残されて、奴の顔を見たら満更でもなさそうにしてるのにまた腹が立った。

PR