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萌えた時に萌えたものを書いたり叫んだりする妄想処。生存確認はついったにて。
30 . April
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21 . September

お前のジャイキリはどこにあるんだ。私が聞きたい。
そんなわけでETU入りした10年後のコータ→→→相変わらずコールリーダーやってる羽田(三十路)です。
言い訳は、しません。お心の広い方だけ続きからどうぞ。




















「あ」
 ごとん、とジョッキが厚い木のテーブルに落ちて、ビールの泡がたっぷりと波打った。少し零れる。
「ちょっと羽田さん、大丈夫っスか?そんなに飲んでないでしょー?」
 そうのたまいながら、背中に追い討ちをかけてきた仲間の目に危うく携帯の液晶が触れそうになって、羽田は慌てて伏せた。駄目だ、メールとは言え、いやメールだからこそ、応援しているクラブの祝勝会でテンション最高潮、一歩間違えば迷惑防止条例で捕まりかねない熱狂ぶりを忌憚なく発揮するこいつらに、この名前を見せてはいけない。何しろそのクラブに、ETUに今日の勝利を運んできたのは彼だ。
 前半二十分、先制点を許してからのハットトリック。総毛立つような快進撃に、観客席にいた誰もが声を嗄らした。嗄らしたことにすら、気付かなかった。喉が焼けるようなアルコールより強くサポーターを酔わせたのは、背負った背番号すら真新しい、若干二十歳のルーキーだった。ついこの間まで、自分達と同じゴール裏で声変わり前の高いチャントをピッチに送っていた、まだ面差しに幼さの残る青年。
 が、羽田の携帯の受信ボックスに放り込んだのは、たったひとこと。
『羽田さんちの前で待ってる』
 何をしてやがるんだあいつは。
 羽田の視線が液晶の端にスライドする。時刻はそろそろ日付を越えようという頃だ。試合後の疲弊した身体を引きずって、安アパートの手摺りに凭れかかっている彼を即座に想像して、黒のアディダスが椅子を蹴った。呆気にとられる周囲のメンバーに取り繕う暇もなく、羽田は暖簾をくぐる。辛うじて札を数枚置いていくだけの配慮はあったが、自分と同じような酔っ払いを避けて走れるほど冷静にはなれなかった。全力で走る、という行動すら、いつぶりかもう覚えていない。祝勝会の会場の居酒屋からさほど遠くもない距離だというのに、自宅前の街灯を仰いだ時、すでに羽田のTシャツはべったりと汗で貼り付いていた。きりなく額から落ちるそれも肩で拭いながら、彼は階段を昇る。息が苦しい。純粋に肉体的な疲労を訴え、鼓動が鼓膜の裏からおおきく響く。
「こんばんは。すっごい汗だね、大丈夫?」
 果たしてメールの主はそこにいた。セキュリティも何もない、1Kの床の鳴る木造アパートの前に立つ、背番号7。ちなみに登録名は下の名前だ。
「……大丈夫、じゃねえ、だろ、お前」
 呼吸を整える合間に、なんとか言葉を搾り出す。ぱたぱたと、顎から伝った汗がコンクリートを打った。
「試合の後、だろ、何で、さっさと、休まねえんだ」
 ぜ、と喉が鳴った。いい加減自分も若くない。目の前の、もしかしたらまだ成長が終わりきっていないかもしれない青年とは、何もかもが違うのだ。何もかも違うのに、この青年は自分に執着している。
「だって、約束したでしょ。シーズン前に」
 たった数歩、軽やかに踏み出しただけで青年は羽田を間近に捕らえる。幼い頃を知っている点を差し引いても、その顔立ちはやや童顔で、けれど黒目がちの双眸の奥には確かに雄の猛々しさが見える。だから、羽田は怯む。それを青年は許さない。
「忘れてても、忘れたくても、なかったことにはしてあげないよ」
 体格の割に大きなてのひらが、羽田の手首を掴む。心臓が氷水に浸された後、煮えた油に突っ込まれたような気分になった。できれば、できなくても、なかったことにしたかった。何で俺なんだ。その質問は随分前にし尽くした。男で、三十路も半ばで、どこから見ても男で、ETU狂いのサポーター筆頭で、それでも。
「俺は、羽田さんを抱くよ」
 いつからこいつは自分を俺と呼ぶようになったのか、と、どこか遠くで羽田は考えた。




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