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萌えた時に萌えたものを書いたり叫んだりする妄想処。生存確認はついったにて。
30 . April
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18 . November
やまなしオチなし意味なしのオフの朝のドリゴト。
いちゃいちゃしている二人が書きたくて書いた。後悔はしていない。続きからどうぞ。



















 瞼を開ける前に、ゆるゆると意識が目覚めた。
 今日の予定を一番に確認しようとして、そういえばオフだったことを思い出す。シミュレートを休日用に切り替え、溜まった洗濯物や冷蔵庫に残った食料の消化などを考えながら、後藤はもぞりと身じろいだ。
「まだ早いですよ」
 すぐ後ろから聞こえた声が、あまりにも自然だったので、彼はまたシーツに懐いてしまう。まだ開くにも億劫な口で時刻を尋ねようとして、後藤はようようベッドに自分以外の誰かがいる経緯を辿った。
「……おはよう、緑川」
 そうだ、昨日デスクワークの残業が終わりかけた頃に、彼からのメールを受け取った。台所に立つ気力もなかったので、コンビニに寄ってほとんど夜食の夕食を買い、自宅マンションの駐車場で待っていた彼と会って、それからつつがなく人間の三大欲求を満たした。結果のこの状態だ。
「まだ寝てたらいい、昨日は隈が浮いてましたよ」
 案外肉厚なてのひらに頭を撫でられ、ついで腹の辺りがぬくくなる。いくつになってもひとに抱かれることに、ひとは安堵を覚える。それが恋人なら尚更で、覚醒しきっていなかった後藤の意識は、再びとろとろと眠りに落ちていった。



 次に目を覚ましたのは、そろそろ短針が九を指そうかという頃だった。仕事のサイクルから脱しきれず、大幅な寝坊もできない体を起こして、あくびをひとつ。顔を洗ってリビングに行くと、緑川はソファで新聞を読んでいた。
「おはようございます。体は大丈夫ですか?」
 一瞬言葉に詰まり、それから頷く。今更恥じ入ることでもないと頭では解っているが、どうにもこういうことは訊かれる度に前の晩の記憶が頭を過る。
「俺もそんなに柔じゃないさ。それに、加減してくれてただろ」
 こちらの疲れを察した時の緑川は、酷く優しいやり方で後藤を抱く。もう少し激しくしてくれてもいい、と後藤は思うが、それを口に出す予定は今のところ立っていない。労るような手のあたたかさに、昂ぶりながらまどろんでしまいそうなセックスを、緑川はする。
「それでもしっかり頂きましたけどね。朝飯はどうします?」
 さらりと笑って新聞を畳む相手に、前半は流したふりで頷いた。六枚切りの食パンがぎりぎり二枚、それに卵はまだあったはずだ。起き抜けでも男二人には若干足りない量だが、外に出るほどでもない。
「あ、もしかして俺が起きるまで待ってたのか」
 謝る後藤を制して、緑川が立ち上がる。
「大丈夫ですよ、どうせ起きてすぐは胃が動かないたちですから」
 キッチンに滑り込み、スチール棚の上の食パンをオーブントースターに放り込む動作が馴染みすぎていたものだから、後藤は一瞬礼を述べることも忘れる。薬缶(ケトルなどと洒落たものではない)を火にかけ、食器籠の前に置きっぱなしにしていたインスタントコーヒーの蓋を開けるに至って、ようやくはたと気付く。まだ頭は寝ていたらしい。
「悪いな、客に朝飯作らせて」
 歩み寄る後藤を横目に見て、緑川はほんの少し口の端をゆるめた。許容するというよりは、呆れた笑みを見せる。
「俺は客ですか」
 そうして、二の句が継げなくなる指摘を、いともたやすく口にする。存外、後藤は失言が多い。
「いや、その」
 舌の上で飴玉のように否定句を転がす後藤の、下がった眉がどうにも愛しくて、緑川は今度こそ破願する。揚げ足をとられては真剣に悩む姿は、何度見ても微笑ましい。口ごもりながら、このまま話が流れてくれないかと待っている狡さがまた不格好で許せてしまう。もっとも、初めから怒ってなどいないけれど。
 野菜室に転がっていた玉葱と、チルド室の隅のソーセージを発掘したので、朝食はスパニッシュオムレツもどきにした。賞味期限の危うい食材の救済も兼ねて、全て使いきる。二人分のオムレツを焼くより手間も省ける。
「人に作ってもらった料理って旨いよな」
 コーヒーを啜ってしみじみ呟く後藤に、女性の噂はない。あっても困る。
「俺は後藤さんの作る飯が好きですよ」
 焼き目のついたトーストにざくざくとバターを溶かし塗りながら、緑川が返す。斜め上に返事をすると、時たまさらに四十五度ずれた答えをくれるのが後藤だ。じゃあ昼は俺が作るな、と真面目に約束されてしまった。異論があろうはずはないので、早くも昼食のメニューについて考える。
「なら、後で買い物に行きますか」
「そうだな」
 指先についたパン屑をはらって、箸を取る後藤の髪がまだ跳ねていた。テーブルを乗り越え、くしゃりと撫でる。
「寝癖」
 直ってませんよ。そう言い足す必要もなく、後藤の顔は薄あかく染まった。二度三度同じようにしていると、回数に比例して朱が濃くなってゆく。照れる間合いがいまいち解らない、と緑川は思う。頭なら、寝ぼけていたが今朝だって撫でたというのに。
「……分かったから」
 手の甲でやわらかく退ける。後藤の目線は緑川のマグカップ辺りに落とされたままだ。それでもしっかり食事を続けるのは、割合食い意地が張っているからなのか。単なる照れ隠しの可能性も高い。
「あんまり隙ばっかり作らないでくださいね」
 素直に手を引いて、堪えきれずくつくつと緑川が喉を鳴らす。
「油断してると食っちゃいますよ」
 重なった貴重なオフだ。忙しい恋人に関して、彼が遠慮を美徳とすることはない。求められる時に求める。でないと干上がってしまいそうだった。当の本人は相手の欲求の切実さにはさらさら気付いていないようで、言葉を返される度に視線を合わせるのが難しくなっている。
「買い物、行くんだろう」
 苦し紛れの、是非の知れない答えを緑川は都合良く解釈する。
「腹を減らした方が買い物も捗ると思いませんか?」
 婉曲な言い回しで後藤をからかう。乗ってくれてもそうでなくても構わない。嘘のつけない後藤の表情がくるくると変わるのを見ているだけで、渇いた鳩尾の奥が充ちてゆく実感がある。無論、肉欲の面での充足は別次元だけれども。
「み、どりかわ!」
 すっかり首まで朱に染まった後藤に声を立てて笑い、緑川はテレビのリモコンを取る。液晶の端に表示された時刻は九時四十六分。たっぷり残されているようで、驚くほど早く過ぎる時間をどう使おうか、悩む間も惜しい。
 さし当たって、恋人以外に食べたいものは考えるべきだった。




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