ふわり、と放物線を描いて、サーベルごと左手が舞った。
その瞬間、音も時間も感覚も、全てが彼を置き去りにした。
後頭部を強か殴られているような錯覚に、クロコダイルは目を開いた。
目の前は暗闇だったが、耳を澄ませ人の気配がないのを認めて、ようやく彼はそれが激しい頭痛によるものだと気付く。鈍く重い痛みは、心音と同じ速さで脈打っている。鼓膜の内からうるさく響いてくる拍動は、身体が熱を持っていることを知らせていた。
「…………痛ぇ」
耐えかねたように唇を開き、それで左腕の感覚が蘇った。鮮烈な激痛がクロコダイルの背骨を貫き、熱を呼んでいる正体であると主張する。左腕の状態を自覚した途端、発熱している全身から新たな汗が噴きだし、一気に昏倒する前の記憶が戻った。
グランドラインの半ば。敵船との遭遇。砕かれた絶対的な自信。瞬く間に物言わぬ肉となっていくクルー達。侵される船。宙を舞うサーベル。俺の、
俺の、左手。
思い至り、元々薄暗かった室内が夜の海の色に塗り潰された気がした。鉛のように重い身体へかかる重力が倍加する。これも錯覚だと振り払おうとするが、どうにか酸素を循環させている肺は今にもひしゃげてしまいそうだった。
ここはどこだ。俺の船はどうなった。俺のクルーは、あいつらは、俺はどうなったんだ。
気力と勢いで使い物にならない身体を起こし、クロコダイルはよろけながら立ち上がった。右足を踏み出すと、体重を感じないまま重心が右へと傾く。前に出す筈の左足が追いつかず、僅か数歩で彼は床にくず折れた。高熱のせいで平衡感覚が絶望的に欠如している。膝をついた振動が頭に抜け、ますます酷くなった頭痛が、金茶の瞳を閉ざした。焦りと苛立ちがない交ぜになった仕草で、額に張り付く髪を掻き上げようとした手は空を切る。理由は簡単だ。手自体が失われていた。
今更ながらに己の欠損を確認したクロコダイルは、それでもそれを頭に刻み込むのに数秒の時を要した。止血がなされている腕は、何度瞬いても手首から先がない。そろりと右手で包帯の巻かれたそこに触れると、痺れるような疼痛が走った。
「やっぱり、ねぇ」
呟いた声があまりにも間抜けで、無性におかしくなった。
馬鹿か。あの時とっくに知っていた筈だろう。目の前で吹っ飛んだ左手、それを追う、今さっきまでひとつに繋がっていた左腕。
頭蓋骨を内側から撞木で打たれるような頭痛と、左手首の齎す痛みに荒い息を吐き、彼はこじ開けた眼で細く光の差す方向を睨んだ。この部屋に窓はない。静止している状態でも感じる揺れから、船底だろうと見当をつける。おそらくは軟禁されているのだろう。自分は敵の「戦利品」になったのかと思ったが、四肢のいずれかが不自由な人間は、奴隷として売り払おうにも買い手がつかない。満足に肉体労働ができないからだ。生かされた意義を思いつけないまま、クロコダイルは這いずるようにドアへにじり寄った。出られなくとも、外を歩く人間の声から何がしかの情報が得られはしないかと期待する。したり、額から顎を滑り落ちた汗のしずくが床を打った。
ついた右手が滑り、彼はとうとう床の上に突っ伏す。ざらりと頬を汚す埃の感触と膚から立ち上る熱気、シャツを湿らす汗がどうしようもなく不快だった。
床についた耳が、振動として音を拾う。調子外れの二拍子が重なりながら近づいてくる。それは、二組の足音だった。クロコダイルの頭上三歩ほど、扉のすぐ向こうで音は止まり、次いで金属の擦れる音が響いた。やはり鍵はかかっていたらしい。
ランプの灯りがくすんだ橙色で室内を照らす。視点が低すぎて入ってきた人間の顔が窺えない。
「何してんだ、キャプテン」
呆気に取られた声が落ちてきて、クロコダイルは瞠目する。屈みこまれやっと目に入った顔には、見覚えがあった。
「………何で、お前らがここにいるんだ」
日差しで色の飛んだ金髪と褐色の肌は、砲甲板を歩いている時よく見かけた。後ろから助け起こそうとしているもう一人も同様だ。なすがままに担がれて、臥していた緩衝材用の藁の上に戻される間、彼は二人を交互に眺めた。何故敵船の中で、自分の部下が自由に行動しているのだ。
「何でって、ここは俺らの船じゃねえか。分かるだろ?」
言うと、金髪の監視班長はランプを高く掲げた。滅多に来ることはなかったが、見慣れた建材や他の部屋と設計を同じくする造りから、クロコダイルはここが自船の船底にある倉庫の一つであることを知った。
「三日も寝こんでたんだ、そりゃわけも分からねぇさ」
持参の手桶にタオルを浸して絞りながら、黒髪の部下が言った。三日、三日も自分は意識を失っていたのか。滲む汗を乱雑に拭われながら、彼は呆然としていた。留まればいいといったていで数個飛ばしに留められていたボタンが外され、止める間もあらばこそ上半身も清められる。昏睡している時から同じ作業を請け負っていただろう部下の手際は良かった。
「……やめろ、それよりあれから俺達はどうなった? 他の奴らは?」
知った顔が無事であったことで、クロコダイルの焦燥は幾分鎮まった。既に随分汗を吸ったタオルを力なく押しやり、その手の持ち主に尋ねる。仰いだ黒髪の顔は、逆光で表情が判然としない。
「随分死んだが、生きてる奴はあらかた逃げられたよ」
「あんたがぶっ倒れた直後に嵐が来たおかげでな」
嵐に乗じて航海士が梶を取り、命からがら逃れたのだという。船が沈むかどうかの瀬戸際で、船長たる自分が気を失っていたことを、クロコダイルは恥じる。同時に、昼のメニューを伝えるのと同じ軽さで吐かれた「随分死んだ」という言葉が、胸の内側に食い込んだ。
「すまん、俺の……俺は、何も……」
文字通り顔向けができず、彼は右手で目元を覆った。指先に整髪料の切れて久しい髪が鬱陶しく絡みつく。陳腐な言い回しだが、何より大切な仲間達だったのだ。あの殲滅戦に等しい戦いの中で、何人が生き残ったのか、何人が死んだのか。生死の数をかけた天秤はどちらに傾いたのだろうか。尋ねるのが恐ろしかった。
「謝んなよ、キャプテン」
「そうだ、あんたが詫びるこたぁねえ」
同胞の多くを失っただろうに、部下達は彼を責めない。一度この船に迎えられた者は、誰しもが船長であるクロコダイルに命を預ける。けれどその命を取り零し、拾う手すら失った彼には、投げかけられる慰めが何より辛かった。
「いいんだよ、あんたは何にも考えなくて」
皮の厚い掌が手の甲に被さり、ゆっくりと熱に浮かされた顔を露にする。覗き込むように身を乗り出されたので、彼は濃い影に阻まれていた部下の表情を読み取ることができた。そしてようやく知る。
その頬が、獣じみた笑みに歪んでいるのを。
「この船はもう、あんたの物じゃねえんだから」
意味を理解する前に、握りこまれた手首が頭上で捻り上げられた。
「……っぐ…………ぁ!」
関節が軋み、喉と共にかすかな悲鳴を上げる。逃れようと伸ばしたもう一方の腕は、包帯越しの傷口が拘束する手に触れた瞬間、新たな苦痛を呼んだ。こちらは短く呻いた隙に肘を取られ、固められた。
状況が把握できないまま足掻くクロコダイルに、金髪が歩み寄ってくる。こいつを引き剥がせ、と口にするより早く彼は下肢を押さえつけられた。腿に馬乗りになるようにして、膝で脚を圧迫してくる。
「なっ…にしやがる、こ、の野郎!」
恫喝のつもりで吠えた声は、思いの他か細く響いた。体調は相変わらず最悪で、唯一自由になる首は傾けただけでぐらぐらと脳が揺れる。
「そんなツラすんなよ『キャプテン』。ちゃんと説明してやるから」
ささくれた金髪の指が、開きっぱなしだったシャツを脇に除けて心臓の真上を這う。吐かれたキャプテン、という呼びかけは明らかに今までと違う色を持っていた。不穏な空気に、熱のせいだけではない汗が滲む。
「簡単さ。あんたが利き腕を失くして半死でのびてる間に、俺たちはあんたを見限ったんだ」
胸から鎖骨へ這い上がった手が、クロコダイルの顎を威嚇するように強く掴む。急速に引き絞られる瞳孔を楽しげに眺め、黒髪が後を接いだ。
「どうにか命拾ったグランドラインのど真ん中で、役立たずの船長について行く馬鹿がいると思うか?」
「―――――がっ、ぁあ、あ……!」
極められた手を更に伸展できない方向へ吊り上げられ、後頭を支点にクロコダイルの背がしなった。瞬間的な痛覚に対する反射で勝手に涙腺が弛み、金茶の瞳に薄い水の膜が張る。視界をぼやけさせながら、彼はようやく自らの境遇を悟った。
この船の人間は最早、一人として彼の部下ではなかった。
下敷きにしている藁ごと、床が抜けるような空虚さが、クロコダイルの裡に溢れ満ちる。振り返るのも遠いほど生き死にを共にしてきた仲間との絆は、たった三日の間にあっけなく砕けていた。圧倒的な喪失感が身体と頭の連結を断ち、感じていた痛みが束の間遠のく。やけに冷えて醒めてゆく思考の中で、彼は今の己に相応しい言葉を拾い上げた。
そうか、これが「裏切り」か。
「なんだ、あんたならもっと泣くなり喚くなりすると思ったんだがな」
期待外れとでも言いたげな口調で、黒髪が吐く。彼も我ながららしくないと思ったが、少なくとも三日前まで感情の起伏が激しい人間だったクロコダイルの心中には、憤怒も憎悪も浮かび上がってこなかった。それが絶望故の無力感によるものだということに、彼はまだ気付かない。
「…………何で殺さなかった」
激昂する代わりに、彼は自分が生かされた理由を問うた。誰もが切り捨てた船長なら、そのまま甲板から投げ捨てればよかった筈だ。それを、船倉とはいえ床を用意し、手当てまでして延命させたのは何故か。クロコダイルのみが知る機密があると踏んだか、散った船員の餞に私刑にでもかけるつもりか。
だが、得られた答えは彼が考えついたどの仮説とも合致しなかった。
「まさか、まだ分かんねぇのか? ……ああ、どの港でもあんたは女しか抱いてなかったもんな」
ざわり、と肌が粟立った。
全身が、読み取った意味を肯んずることを拒んでいた。感情の振れで再び繋がった心身が種々の苦しみを訴え、しかしそれは示された事実の前にまたも霞んでゆく。
「安心しろよ。あの化け物共と闘り合った時、あんたを慕ってた奴らはあんたのせいでほとんど死んじまった」
だから、残ってるのはあんたを遠慮なく犯してやれる人間だけだ。
引導を渡すように吹き込まれ、クロコダイルの目の前が一瞬暗転する。異種族と比べれば確かに小柄だが、人間としては長身巨躯である己が同じ男から性欲の対象として見られるなど、彼にとっては理解の範疇を超えていた。けれど自分を押さえつけている元部下達は、娼婦を値踏みする時と同じ目でこちらを見ている。
真実なのだ。彼は離反した船員に慰まれるためだけに助けられた。それ以外の価値など、既にありはしない。
「―――――や……めろ、やめろ、離せっ、触るんじゃねぇっ!!」
裏切られた事実を突きつけられて尚、目立った抵抗を見せなかった彼は、弾かれたように激しく抗い始めた。純粋な嫌悪と容れ難い扱いに対する恐れが、熱を押して四肢をばたつかせる。
「それで抵抗してるつもりかよ!」
耳障りな嘲笑が酷く鼓膜に響いた。派手な音を立てて頬を張られ、脳を撹拌されるような不快感に思わずきつく瞑目する。噛み合う金属が下ろされたのが、緩くなる腰周りの感覚で解った。退いた金髪は、彼の下着までひとからげに手をかけ膝まで引き剥ぐと、その上に乗って再度自由を奪う。
「誰が手ぇ出していいって言った」
底冷えのする声が、開かれた扉から無造作に投げられた。二人の暴漢は打たれたように固まり、幽囚の身となった元船長は眇めた目でそちらを見やる。
「………………副船長」
そこに立っていたのは、数分前まで全幅の信頼を寄せていた男だった。
「さすがにもう名前で呼んじゃくれねえか」
よく知った面差しに知らぬ暗い笑みを浮かべ、副船長と呼ばれた男は短い顎ひげを撫でる。怯えた様子で機嫌を伺う部下に、引き続き拘束し続けるよう指示すると、彼は歩んできたその足でクロコダイルの脇腹に触れた。
「よくその傷で持ち直したもんだ。もっとも、そうでなきゃクルー共の要求に応えてやった意味がねえ」
硬い革の爪先が、白い膚に食い込む。骨で守れない部位を突かれ、勝手に息が詰まった。
「喜べよ? 出来損ないのキャプテンでも、部下だった奴らはお前が欲しいとさ」
気力を振り絞って睨み上げてくるクロコダイルを愉快気に見下ろすと、男は荒く上下する鳩尾を踵で踏みつけた。容赦なく重みをかけられ激しく咳き込んだ彼のまなじりから、感情とは無関係な涙が滑る。
「って、めぇ……ふざっ……けんな……っ」
「……ははっ、そりゃこっちの台詞だ。お前が痛めつけられて勃つような変態だとは思わなかったぜ!」
信じ難いことを吐かれ、クロコダイルは反射的に露にされた下肢を見た。性的興奮は皆無だというのに、言われたとおりそこはゆるく兆してきていた。単なる生存本能の暴走だったが、メカニズムを知らない彼は心底困惑する。
「病み上がりにも程があるが、それだけ元気ならもういいだろう。――お前ら」
許す、やれ。
簡潔に下された命令は、生きた枷となっていた男達を再び獣に変えた。
「……っ、……ぅ、ぐ……ぁう……っ」
後ろ手に括られた腕が背の下敷きになり、絶え間なく痛む。
その感覚だけに意識を集中させようとしても、身の内で蠢く節くれた指の感触は振り払うことはできなかった。片脚を限界まで押し広げられ、もう片脚は先ほどのように男の膝で押さえつけられている。抵抗する術をほとんど封じられた無様な状態で、クロコダイルは三人の男の眼前に晒されていた。
「なあキャプテン、もう大丈夫だろ」
なかを蹂躙する金髪が、傍観している男に逸る声音で問う。椅子代わりの樽の上で脚を組む元副船長――そして現船長は、息だけで笑い飛ばす。
「まだ二本しか入ってねえじゃねえか」
当然のように交わされる会話が、クロコダイルを羞恥で灼く。継続して船員の相手ができる身体に仕立てるため、執拗に続けられる馴化は、暴力的な強姦よりも耐え難かった。油でぬめる指は小さく湿った音を響かせながら、かたくなに異物を拒む粘膜を懐柔してゆく。熱か痛みか嫌悪感か、滴る汗の理由は随分前に行方不明になった。
「ちょっとぐらい切れたって大したことねぇよ、使ってりゃどうせ馴れんだ」
シャツの引っかかった肩口を床に押し付けながら、黒髪が船長に言い募る。彼の手が上気した膚のそこここをまさぐる度、クロコダイルは総毛立った。
「馬鹿野郎、最初から傷物にしてどうする。元キャプテン殿には、今や高級娼婦も敵わねえ待ちができてんだ」
どろ、と腿の付け根に何度目かの油が垂らされる。鼠径部全体を濡らすそれは、抜き差しの繰り返される孔にも存分に零れ落ち押しこまれていた。粘りつく水音が大きくなる。既に目を閉じ、顎が痺れるほど歯を食い縛っているクロコダイルは、塞げない聴覚を呪った。
ひきつれるような感触が強くなり、三本目の指が入ってくる。細かな出入りを繰り返しながら、しかし確実に根元まで埋まってゆく。異質な圧迫感をやり過ごそうと細く息をつくが、内壁を押し拡げるように掻き回されるとそれは無駄な努力に終わった。
「ほら、三本入ったぜ、いい加減突っ込ませてくれよ…!」
「ん、くっ……ぅ、うっ」
せわしなく指を動かされ、首を反らす。口を開いてまともに喋れるなら、いっそ殺せと叫びたかった。何故殺さなかった、何故殺してくれなかったと、答えを得た筈の問いかけがきりなく頭を巡る。
「仕方ねえな」
細い煙草を取り出した船長は、ひらりと手を振る仕草で許可を出した。側薬に擦れるマッチの音が合図だったように、クロコダイルの目が見開かれる。反応したのは音ではなく、触覚だった。
「――――――っ! や、め…っぁ、ああぁあぁっ!」
抜かれた指とほとんど入れ替わるようにして、滾った肉がじわじわと後孔に沈められる。覆いかぶさってきた男の影が落ちてくる。粘膜が悲鳴を上げ、閉じられなくなった唇の端から耳の下へ、唾液が伝った。
「ふ…くくっ、処女を奪われた気分はどうだ?」
よほど悲壮な顔をしているのか、実に楽しげな忍び笑いとともに船長が尋ねてくる。最早その言葉の半分も、彼は解することができなかった。男と繋がっているという事実が、吐き気を催すほど気持ち悪い。
「早くしろよ、後がつかえてんだ」
「…って、締まりすぎて動けねぇんだよっ」
急かす仲間に舌打ちして強引に腰を引くと、金髪はクロコダイルの前に手を伸ばした。萎えたままのそれを無遠慮に握り、扱く。唐突な刺激に反応を隠すことができず、強張っていた下肢は緊張と弛緩を繰り返して震えた。その間合いを見計らって、抽挿が開始される。最初から深いストロークで内側を突き上げられ、それに合わせて喉が開く。いっぱいに目を開いている筈なのに、見えるものは輪郭が歪んで全てが不鮮明だった。数拍遅れで、ああ自分は泣いているのだ、と気付いた。こめかみへ流れてゆくそれは、途中で汗と同化してどちらか解らなくなる。汗と同じく、涙を流す理由も解らなかった。
「ひ、ぐぅっ、は……ぁっ、あ゛っ」
お情けのような快感を与えられたせいで、声が上擦る。弄った際のなかの感触が気に入ったのか、金髪はそれを戯れに弄びながら腰を打ちつけてきた。
「あぁ、いい、すげ……最高……」
じきに構う余裕もなくなってきたのか、男は両手でクロコダイルの腰をがっちり捕らえると、一層激しく揺すり上げた。がくがくと頭が揺れる。熱と衝撃でこのまま頭が煮えてしまえばいい、と馬鹿げたことを切に願う。そうすればきっと、もう何も思わずにいられる。今にも皮膚を突き破って溢れ出しそうなあらゆる負の感情にも、これ以上打ちのめされずに済む。
「あっ、は、ぁあ、あ、ぅ――――――…っ!」
身体の中で肉が弾け、極まった拒絶感にクロコダイルは小さく痙攣する。目の前の男も同じように身を震わせているが、こちらは吐精の余韻を味わっているだけだ。
犯され嬲られることが、今の己に残された存在理由。
怖気が走る精の感触に、彼はそれを心底思い知らされ絶望した。そして次の瞬間悟る。
「さあ、へたばってねぇで俺とも遊んでくれよ」
絶望という感情に、底などない。
蛇足(反転)
鰐に「ひぐっ」って言わせたかったんです。(お前最低だな!)(知ってる!)
思いがけず具合の悪い鰐のターンが長引いてしまいました。
ちなみに、現時点では鰐は全然気持ち良くありません。いってもいません。
多分この後嫌悪感に耐えかねて吐くと思います。書きませんが。
モブの台詞がベッタベタなのは、仕様です。(匙を投げた)