「けだものだって恋をする。」(A5/64p/600円)
ジャイキリ×SEXPISTOLSのダブルパロ本です。
達海×持田、村越×羽田、緑川×後藤のカプ詰め合わせ本です(それぞれ独立した話です)ので、ご注意ください。
どのカップリングもやることはやってますので18歳未満のお嬢様はご遠慮ください。
表紙を藤2さんに描いて頂きましたよ!味気ない表紙とはおさらば!ひょう!
サンプルは続きから。
「達海さんってもしかしてクラブハウスの近くに住んでんの?」
裏面に書いた住所まで熟読されたらしく、そんな質問が飛んでくる。
「うん。近くっていうか、住んでる。クラブハウスに」
きょろり、と焦茶色の瞳がまたたいた。濃い茶色に、蜂蜜を混ぜて練ったような色をしている。何色と言うのだったか、思い出す間にまた爆笑された。
「何それ住んでるって? クラブハウスに? 達海さんすげー! 考えらんねえ!」
指でも指しそうな勢いだ。選手としてはそろそろ中堅の域ながら、やはり少年のような、悪く言えば悪ガキじみたところが拭えない。
「どうでもいいけど声でかいね、お前」
声量もそうだが、持田はよくとおる声をしている。
「あーうん、よく言われる。自分じゃ解んねーけど」
鈍い音を立てて、透明な容器の中のオレンジ色が吸い上げられてゆく。木製のテーブルには、底のかたちにまるく水が引かれている。
「ていうか、なんで俺とお前はここにいるの」
そもそもの話に立ち返り、達海が首を傾げると、向かいの持田も同じ仕草をした。
「あれ? 言ってなかったっけ」
そこから急に声をひそめ、彼は重大な秘密を打ち明けるように身を乗り出す。
「俺ね、ファンなんだ。達海さんの」
殊勝なコメントと裏腹に、ふてぶてしい笑みはそのままだった。けれどすい、と逸らされた視線から、意識の舵を離れた感情が覗く。
――伊達に人を見る商売はしてないもんで。
嘘ではない。世辞ではさらにない。わずかに落とされた目線が示すのは、好意を露わにすることへの照れだ。そこいらのサッカー少年と、何も変わらない。果たして達海監督のファンなのか、それとも達海選手のそれなのかは知らないが。
「はっ、天下の東京ヴィクトリーの十番に、そんなオコトバ頂くなんて光栄だね」
組んだ膝に絡めた指を乗せて、達海は体を揺らす。不愉快そうには響かなかっただろう。実際、不愉快ではなかった。
「あと、俺とおんなじ人って見たことなかったからさ」
空になったカップをテーブルに置き、持田が今度はまっすぐに達海を見る。鮮やかな緑色のストローには、噛み跡がついていた。
「達海さん、ジャガーでしょ?」
確信を持って問い質され、達海の眉がかるく持ち上がる。
「……そうか」
芸のない万能語が、たっぷりと間を置いて返ってくる。
「普通に生きてく分には何も問題ないですから」
車は緩やかな傾斜を登り、「正門前」の後ろに矢印のついた標識の下をくぐり抜けてゆく。山を買い上げて開かれたキャンパスは、外から敷地内駐車場まで道路が繋がっている。
「あと、別に嫌じゃなかったんで、本当に」
聞こえなくても構わない気持ちがあったので、発声は明瞭ではなかったが、村越は運転時にBGMを必要としない人間だった。
「――――お前な、危機感持てよ」
教務棟前の駐車場に滑り込みながら、村越が堪えかねたように吐き出す。その声にはほとんど案ずるような苦さが滲んでいた。
「そういうこと言ってると、また取って喰うぞ」
今度こそ、羽田は窓に側頭部を打ちつけた。大丈夫かと訊かれたら、大丈夫ではないと答えるしかない。
「呑んでない、スよね」
「当たり前だ」
「心臓に悪い冗談やめてください」
「冗談じゃねえよ」
断言されると同時に、アイドリング音が止まった。シートベルトを外すことも忘れて、羽田は硬直する。
「警戒するなら甘ったるい匂い垂れ流しにしてんな。俺は酔ってても、素面で寝られねえ奴は抱かねえ」
ドアのロックは外れている。ベルトの留め金を外せばすぐに降りられるというのに、村越の言葉に刺し留められて、彼は動けない。
「ど、んな、殺し文句……!」
声帯を無理にこじ開けたせいで、出だしの声はかすれた上に裏返っていた。
「気付いてねえから言うけどな。無防備過ぎんだよ、お前」
おおきな手が、下からがっしりと羽田の顎関節を掬い上げた。触れて初めて感じる村越の匂いに、彼は相手が最大限に力を抑えていたことをようやく悟る。
「ほら見ろ。言われた傍から捕まってどうすんだ」
諫言は、唇から唇へ伝った。整った歯列が、血の色を透かすうすい皮膚をやわらかく噛んで、すぐに離れる。
「――抱かねえよ。用があんだろ、ここに」
拍子抜けするほどあっさりと、村越は羽田を解放した。少なくとも、見かけ上は。
「用、とか」
一瞬で身体の奥から欲情を引きずり出しておいて、手を引いた村越の行為は、厳密に言えば解放と正反対に位置するものだった。
許容するふりでやんわりと催促されている気がするのは、おそらく思い違いではない。
「……準備っていうか、覚悟だな……」
独り言に近く呟いた言葉に、後藤は自らの手で退路を塞いでしまったことを悟る。
けれど、気付こうと気付くまいと、からめた指を解きたくないのは、結局彼も同じだった。
服の下に忍び入ってくる緑川の手は、いつでも少しつめたい。
犬神人と蛟の違いを、後藤はいつもそんなところで考える。両親がともに蛟か、もしくは蛇の目である場合は、自律神経系の弱い子供が生まれることがあるらしい。純粋な蛟である緑川にもそのきらいがあるようで、気温の変化の激しい季節の変わり目などには、身体の不調を訴えることがあった。
「後藤さん、体温高いですよね」
リビングの灯りをつけるなり、緑川は後藤の首筋に鼻先をうずめた。低い平熱を補おうとするように、彼は何くれとなく素肌に触れてくる。
「お、前が低い、んだろ」
至近距離で耳朶をぬくめる吐息が、ふるりと膚を粟立たせる。弱点だと知れているそこを唇でやわく咥えられ、緑川の腕にかかっていた指があからさまにこわばった。
「気持ちいいな。眠くなる」
「ばっ、そこで、しゃべっ、」
じりじりと身体を昂ぶらせながら、どの口が言うのか。引っ張り出されたシャツの裾から潜り込んだ手は、脂肪のない胸をゆっくりと這い、ささやかな突端に爪をかけた。
「ん…………っ」
声を呑んだ分、身体は顕著に跳ねた。布越しに指のうごめくさまがやけにいやらしく見えて、けれど後藤はそこから目が離せない。
「あ、も、ちょっと、待、てっ」
せめてソファに辿り着こうとする彼の、足が内側から払われてバランスが崩れる。しめったような革張りの背面に危うく顔から突っ込みそうになって、後藤は振り向きざまに緑川を睨んだ。
「すみませんね。たまには変わったことしてみようかな、と思って」
悪びれない笑顔は穏やかだけれども、それが決して善良なものでないことを、後藤は知っている。後ろから器用に彼のベルトを外し、兆しかけている前を下着の上からするりとなぞると、緑川の手は胸に戻った。

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