こんなに嘘がつけないひともいないと、苦笑する。
捨てられるのを覚悟してきましたという顔で、緑川の恋人は膝から目を上げられぬまま、とつとつと後ろ暗い告白を続けている。ひとつ言葉を零す度、自分のそれで傷ついているのが解った。止めてやりたいけれども、それでは彼の決意を無駄にすることになる。ほんとうに不器用で、真面目なひとだ。今の仕事に就いているのが信じられないほど。いや、こういうひとだからこそ、打ち明けざるを得ない(彼の考えからしてみれば)事実を作ってしまったのだろうけど。
枕営業、という芸能週刊誌成人向け動画などでしか見かけない言葉を、このひとの口から聞くのは酷く違和感があった。後藤が己の身体と引き換えに、クラブの資金援助を得ている先があることは、薄々気付いていたけれども、改めて言語化されると今ひとつ馴染まない。スラックスを握りしめた指の関節はしろく抜け、きっと体温を失っている。
「だから、」
順接の先にあるものを察して、緑川は続きを引き取る。
「別れませんよ」
重苦しい空気を漂わせてこのかた、うなだれ続けていた後藤が、初めて彼を見た。
「どんなにあなたが自分のしていることが間違ってると思ってたって、俺と関係を続けることが辛くたって、別れてなんてあげませんよ。あなたが俺を嫌わない限り、あなたは俺のものです」
ああ、あと少しだ。
あと少しで、きっとこのひとは泣く。
「何で、」
うるんだまなじりを見せまいと、後藤が両手で顔を覆う。感情が昂ぶると涙腺にくるたちなのだ。長い腕でそのまま彼をくるんで、緑川は丸まった背をやさしく撫でた。吸った息がこまかく震えている。
「何でって、そんなの」
もっともらしい理由を考えようか、ほんの少し迷って緑川はやめた。口舌を尽くそうが尽くすまいが、言いたいことは変わらない。そしておそらく、素直なこのひとには馬鹿正直に伝えるのが一番堪えるだろう。
「俺が、どうしようもなくあなたを好きだからですよ」