いつでもサングラスをかけている役なのだと聞いた時、ほんの少し安堵して、それから失望した。
一番好きな仕事にさえ、対人コンプレックスを割り込ませる自分の情けなさに、気分が落ちこむ。下降線を辿るテンションが過去の恥や失敗の記憶を呼び寄せ、ルーティンになった悪循環に吐く溜息は鉛のようだ。
あのひとのようにいつも堂々といられたらいい、とテストモニター越しに姿を追いかけ、すぐに逸らす。呼ばれてしまったからだ。次のカットは俺とあのひとの対決だから、俺はあのひとを遙かに見下ろす位置につく。その距離を置いてすら、気圧される。気迫、風格、身のこなし、息づかい。天性の役者とはこういう人間のことを言うんだろう、と思った。ずっと憧れだった。この世界の物差しなら、さほど歳は離れていないけれど、俺が掛け出しの時既に舞台で活躍していたあのひとは、目が眩むような高見にいた。今の立ち位置とは正反対のように。
俺を含めてスタンバイを終えたセットに、あのひとが滑り込んでくる。撮影の関係で別のスタジオから移動してきたあのひとは、急ぎ足で周りのスタッフに詫びながらやってくる。ひるがえるコートが雄々しく見えるのは、とても姿勢が美しいからだ。演じるために鍛え上げられた身体に隙はないと、仕草のひとつひとつが語っているようだった。
瓦礫の真ん中に、あのひとが着く。こちらを見上げて顔の前に片手を立てる。悪いな待たせて、と口の端で笑う顔が、カメラの回る合図と共に、冷徹な傲慢さに彩られるのを、この場にいる誰もが知っている。改めて震えた。俺が、このひとの敵役なのだ。
色眼鏡越しだというのに、こわばった表情を悟られて噴き出された。このひとは俺を緊張しいだと思っているのだ。俺はその誤解を撤回することができない。俺が固まるのは、きまってこのひとと接する時なのだから。
「おればっかり笑っててどうするんだ。笑ってなきゃいけねェのはお前だろう?」
ドフラミンゴ。
呼ばれた名前になお硬直しながら、俺はなんとか不格好な笑みを作ってみせた。
あんたの前でなければ、きっともう少し上手に笑えたのだけれど。
役名と本名が同じとか細かいことは優しくスルーしてやってください。
口下手不器用→気さくな兄貴肌。ドフラの中の人は顔立ちが鋭いのがコンプレックスで、それを隠せるグラサンをかけられる役がちょっと嬉しかったというそんなナイーブさん。すごく…別人です…。

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